詩篇は旧約聖書の中の一書です。新約聖書と旧約聖書はそれぞれいくつもの書物が集められたもので、詩篇は旧約聖書に含まれています。
旧約聖書の言語は(一部を除き)ヘブル語ですが、ヘブル語の聖書は三つに区分されていて、それぞれ「律法」(トーラー)、「預言書」(ネビイーム)、「諸書」(ケスビーム)と呼ばれ、頭文字をとって「タナハ」とヘブル語聖書を呼ぶこともあります。詩篇は最後の諸書に含まれますがその最初に置かれ、諸書全体のことを「詩篇」と呼ぶこともあります。
ヘブル語ではティヒリームと呼ばれ、ハーラル(賛美する)という動詞から派生した名詞です。ハーラルはハレルヤ(主を賛美せよ)という形で詩篇の中でよく使われ、名実共に賛美の書です。
ギリシャ語訳の聖書ではプサルモイと呼ばれ、英語訳聖書などでの名称はその変化したものです。
日本語聖書では詩篇で、漢訳聖書に由来すると思われます。
詩篇は150の詩(これも詩篇と呼ぶ)が集められたもので、五つの区分に分けられています。これは律法が五つの書から成り立っていることに準じたものと考えられています。
長い詩(119篇、176節)から短いもの(117篇、2節)ものまで、様々で、内容的にも賛美、祈り、教えなど様々な要素があります。
多くの時代にわたって作られた詩篇がいくつかの段階を経ながらまとめられていったと推測されます。その名残として、詩篇の中にもいくつかのグループとなっているものがあります。たとえば、アサフ集(50篇、73〜83篇)や都登りの歌(120〜134篇)などです。
多くの詩篇には表題がつけられていて、その中に作者と思われる名前が書かれています。しかし、ヘブル語の前置詞レは様々な意味があるので、かならずしも作者かはわからりませんが、何らかの関係があると考えられます。もっとも多く登場するのはダビデで、サムエル記などにも彼が音楽家であったと書かれていますので、実際多くの詩を作ったのは確かでしょう。
表題のついていない詩篇を「みなしご」詩篇などと呼びます。ギリシャ語訳の聖書では、表題が無いと不都合と考えたのか、ヘブル語ではついていない表題をつけてある場合もあります。
「指揮者(のために)」と書かれている表題もありますが、作者というよりは、詩篇が礼拝で用いられた時に何らかの意味があったのではないかと思われます。
表題には音楽的な記号と思われる言葉がいくつも使われていて、その多くは正確な意味が分からなくなっています。
表題ではありませんが、本文中に「セラ」という記号が含まれている場合があり、その意味も不明です。
近代に盛んになった類型論という研究方法があります。その内容には問題点も含まれますが、詩篇の種類の分類という点ではその重要性は低くありません。
学者によって分け方は多少違いますが、つぎのようなものがあります。
民族の嘆きの歌
個人の嘆きの歌
個人の感謝の歌
賛歌(賛美の歌)
その他にも、知恵の詩、王の詩篇と呼ばれるグループがあり、また「いろは歌」の特色を持つ詩篇もいくつかあります。
詩篇は新約聖書の中で引用されていることの多い書の一つで、百回くらい引用されています。特にキリスト(メシア)に関する預言として用いられ、その意味で新約聖書、強いては福音理解そのものに大きな影響を持っています。